草津白根山における火山熱水系
中村 一茂 (指導教官 平林 順一・大場 武)

【序】
 草津白根山は群馬県北西部に位置する活火山で、近年では1982年10月から1983年12月にかけて5回の噴火が発生し、1996年2月にも極めて小規模の噴火が発生するなど、現在も活発な火山活動を続けている。草津白根火山観測所では山頂周辺に分布する温泉水や噴気ガスの定期的な調査を行っている。本研究では、草津白根山湯釜火口の北側一帯に噴出するガスを採取し、化学組成、水蒸気の水素・酸素の安定同位体比(D/H・18O/16O)を測定した。本研究はこれらの地球化学的分析から地表近くでのガスの挙動に関する情報を得ることを目的とした。

【試料採取・分析】
 草津白根山湯釜の北側において18ヶ所の噴気ガスと2ヶ所の温泉水を採取、分析した。火山ガスは小沢(1968)の方法に基づき、二口注射器を用いて5M KOH水溶液に吸収させて採取した。また、H2SとSO2の比を求めるために火山ガスをI2と反応させ、H2Sから生成した単体のSとSO2から生成した硫酸イオンを分別し、硫酸バリウム重量法で定量した。CO2は微量拡散分析法で、HClはチオシアン酸水銀による吸光光度法で定量した。アルカリ溶液に溶解しないガス(H2,He,N2,CH4,Arなど)はガスクロマトグラフィーで分析した。水蒸気の水素・酸素同位体比は、冷却した二重ガラス管にガスを通して凝縮させた水に対し、それぞれZn反応法、CO2-H2O交換法を適用して得たH2、CO2ガスを質量分析器(MAT252)で分析し定量した。

【結果・考察】
fig.1  ガスの挙動に敏感であると思われるCO2やH2Sの濃度、水蒸気の水素・酸素安定同位体比(D/H・18O/16O)などを用いて解析を行った。例えば、CO2/H2O比が高いガスは低い酸素安定同位体比をもつ(Fig.1)。この傾向はマグマ起源の流体と天水の混合モデルでは説明できない。混合モデルが正しければガスのCO2/H2O比とd18Oは、Fig.1において実線で示されるマグマ性の端成分と天水の端成分の混合線上に分布し、正の相関を持つはずである。単純な混合モデルで説明できない理由の一つとして、噴気温度が100℃前後と水の沸点近くであることから、混合気体が地表へ上昇する際に水蒸気が凝縮し失われている可能性が考えられる。このときのCO2/H2O比やd18Oの変化をレーリー過程に基づき計算するとFig.1の破線で示され、分析結果は地下でガス中の水蒸気の凝縮が起こっていることを示している。
よって、観測されたガスは、マグマ性のガスと天水の混合気体が、地表に到達するまでに冷却されて一部の水蒸気が凝縮し、液相を失ったものであると推測される。例えば、図中(a)のガスは地表に到達するまで80%以上の水蒸気を失っていると考えられ、一方で混合線上にプロットされるガス(b)はほとんど水蒸気を失っていないと考えられる。
 また、今回採取した噴気ガスの中で、H2SとCO2の含有量の比が3つのグループに分かれることがわかった。しかもこの比の違いは採取した噴気ガスの地域との相関もあり大変興味深い現象である。この原因は今回の研究のみでは解明することは困難であり、今後の課題の一つである。

 

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